あらすじ

プロローグ 「おい、また風が教えてくれた、か?」 馴染みの刑事、佐藤はあきれたように額を押さえた。 ブルーシートが敷かれた狭い路地裏。そこに残された「何か」の気配を追いかけるように、私——風間 絆(かざま きずな)はコンクリートに膝をついていた。 ビル風がゴウゴウと吹き抜けるたび、私の耳には、他の誰にも聞こえない「声」が届く。 『痛い、痛いよ』 『上から、突き落とされたの』 『あの男、まだ上にいる……』 それは、数時間前にこの場所で命を落とした被害者の、最期の記憶を孕んだ大気の呟きだった。 「佐藤さん、これは自殺じゃない。他殺だ。犯人はまだこのビルの中に隠れている」 私がそう告げても、佐藤はため息を深くつくだけだった。 「風間、お前の『耳』が良いのは知ってるがね。風の声がどうだなんてファンタジー、裁判所が信じると思うか? 必要なのは物証だ、目に見える確かな証拠だよ。それがないなら、ただの妄想だ」 「分かっている」 私は立ち上がり、コートの襟を立てた。 この世界は、私にしか聞こえない真実で満ちている。だからこそ、私はその「見えない声」を、誰もが認めざるを得ない「形ある証拠」へと翻訳しなければならない。 たとえ、世界中の誰も私を信じてくれなくとも。 吹き抜ける風だけは、絶対に嘘をつかないのだから。

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小説を読もう2026/06/22
  • 現在の作品風の証言者は嘘をつかない