あらすじ
誰かのために作るほど、私の皿は空だった。
没落伯爵令嬢リリアナは、侯爵家の厨房で働いていた。
けれど婚約者は、その料理を価値のないものと笑う。
料理など、腹を満たせば同じだと。
婚約を失った夜、彼女が持ち出せたのは、欠けた木匙だけだった。
行き場のないリリアナは、市場の端で夜食屋台を始める。
温かい塩スープだけが、彼女の新しい居場所になる。
ある夜、銀の鎧をまとった騎士が屋台に現れる。
彼は味を失い、食事の喜びを忘れていた。
それでも彼は、リリアナのスープを最後まで飲み干す。
味が分からない騎士が、なぜ毎晩スープを求めるのか。
捨てられた令嬢の小さな鍋は、誰の心を温めるのか。
その一杯が、何を変えていくのか。