あらすじ
15歳になった日の朝、オレは突如として前世の記憶を思い出した。無論、それまで生きてきた14年間の記憶は確かにオレのものであった。しかしそれ以降、オレには15歳に至るまでの記憶が2系列、併存するようになったのだ。農村の倅として逞しく生きる16世紀のオレの記憶と、義務教育課程のモラトリアムを貪る21世紀の俺の記憶。記憶の併存は、21世紀の俺の記憶が途絶えるその日まで、これからも続いていくことであろう。
あの日の午後、オレは城に呼び出された。城では丁度、新年を祝う集まりが開かれていた。そう、オレの誕生日は1月1日なのだ……まぁ誕生日はともかく、そうして登城したオレは御隠居様から出生の秘密を明かされると同時に、その脇に侍る宣教師からはこう予言された。
「この者は『勇者』として生き、『魔王』として死すであろう」
尤もこの予言は人口に膾炙する内に少しづつ改竄され、今では
「この者は『勇者』として畏れ敬われ、『魔王』として忌み嫌われることであろう」
としてその名を馳せている。
いずれにしてもオレにとっては不吉かつ不名誉な予言ではあるが、この宣教師には真実に世を見通す能力が備わっていたものらしい。後にオレは『勇者』として立ち、『魔王』を降し……
そしてオレは今、この|魔王城《デーモンフォートレス》で|防衛線《タワーディフェンス》の指揮を執っているという訳だ。オレはまだ『魔王』として死ぬわけにはいかない。少なくとも、これまでのところ22年間は続いている記憶の併存を、16世紀のオレの死により途切れさせないために。