あらすじ

この家には、二つの“声”がある── 答えは、もう永遠に分からない。 配達員の村瀬直斗は、天霧の山奥にある一軒家に「置き配禁止・必ず手渡し」の荷物を届けた。インターホン越しに震える女性の声が指示を出す。 「扉は絶対に開けないでください」 しかし荷物を渡そうとした瞬間、背後から同じ声が滑らかに囁く。「開けていいですよ。私はここにいますから」。直斗は振り返らなかった。刑事時代の勘が告げていた。 呼吸音のある声と、ない声。完璧に模倣された自分の声。そして白く不自然な手。すべてが、山間部に伝わる怪異「声写し」の特徴と一致していた。 声写し──人の声を完璧に写し取り、呼吸の音だけを欠いたまま近づき、振り返った瞬間に実体を得て境界を越えようとするもの。空虚を貪るその怪異は、天示の祠で作られた特別な箱──中身が空の「声の牢」──にしか封じられない。 荷物を渡すたび、声は増え、近づき、記憶さえも曖昧に溶かしていく。封印は成功したのか。家主の声は本物だったのか。それとも……。 霧の深い天霧の夜、直斗が寮に戻った後も、電子音と声の残響は決して止まない。本物は、どちらだったのか。

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小説を読もう2026/06/21
  • 現在の作品置き配禁止の家──天霧谷の空虚を貪る怪異