あらすじ
福井の海沿いで、ひとりの木工職人が孤独死した。
松下晋治、六十二歳。
事件性なしとして処理されかけたその死に、福井県警広域犯罪対策班の冬月黎は小さな違和感を拾う。
作業場に残されていたのは、丁寧に作られた陶器用の木箱。
箱の底に刻まれた、かすかな「M」の焼印。
そして、長崎市内へ何年も続けられていた送金記録。
答えを追って長崎へ向かった冬月は、二十年以上前の工芸展図録に辿り着く。
そこには、作品を守るための箱の補強線と、一行だけ切り抜かれた出品者名が残されていた。
消されたのは、名前か。
それとも、誰かが見なかったことにした時間か。
誰か一人を裁くためではなく、見えなくされた痕跡を拾い上げるために、冬月は長崎の坂道を進む。
広域捜査 -F-
File 01
グラスボートは夜に泳ぐ
これは、違和感を拾う刑事が長崎へ向かう、最初の記録である。