あらすじ
元亀元年、志賀の陣――。
織田信長を挟み撃ちにするべく、比叡山へと在陣していた浅井長政。
戦況はあと一歩で魔王・信長の首を獲れるところまで迫っていた。しかし、過酷な極限の寒さのなか、同盟相手である将軍・足利義昭や朝倉義景たちの政治的思惑、そして「平和」を盾にした正論の前に、長政は無念の和議を受け入れざるを得なくなる。
己の限界と無力さに苛立つ長政の前に現れたのは、あてがわれた一室で身の回りの世話(夜の伽)をさせられている、最愛の妻と同じ名を持つ貧しい娘――「市(いち)」であった。
僧兵たちに玩具のように消費される理不尽な運命のなかで、長政のどこまでも誠実で優しい器に触れ、真実の愛に目覚めていく市。長政もまた、妻への後ろめたさを抱えながらも、命を懸けてこの傷ついた娘を守り抜き、江北の美しい琵琶湖を見せてやりたいと心底願うのだが、無情にも時代の濁流が二人を切り裂く。
信長が焼く前に、なぜ浅井長政が比叡山を焼かねばならなかったのか。
歴史の隙間に隠された、義将・浅井長政の最も切なく、最も激しい「漢の覚悟」を描き出す、渾身の本格派・戦国歴史短編