あらすじ
川崎の最東端に位置する人工の島「浮島」。そこは人間ではなく、銀色に光る複雑なプラントやパイプのジャングルがどこまでも続く、眠らない工場の街。
ある冷え込んだ冬の夜、海沿いにそびえ立つ一本の高い煙突のてっぺんから、工場の熱気と冷たい潮風がまじりあう瞬間に、ちいさな黄金色の光の粒があつまって「星くずの子」が生まれます。
星くずの子は、赤や白、緑色の光で美しくきらめく浮島の夜景が大好きでした。しかし、誰もいない静かな島の夜を過ごすうちに「なぜこんなに綺麗なのに誰も見に来ないのだろう?」と疑問に思い、海の向こうにある人間の街へと冒険に出かけます。
辿り着いた街の路地裏で、彼はベランダから浮島の方角を見つめるひとりの女の子に出会います。女の子は「今夜も工場の煙と光のせいで、お星さまが見えないや」と寂しそうにつぶやいていました。
自分が生まれた工場が、街の人たちの星空を隠してしまっている――。
真実を知った星くずの子は、胸を痛めながらもちいさな手を強く合わせます。「それなら、ボクが星になればいいんだ!」
彼が体いっぱいの力を込めると、何千、何万もの黄金色の星くずが夜空へと吹き上がり、工場の煙を包み込んで美しい光の天の川を作り出しました。女の子は目を輝かせ、夜空に願い事を唱えます。
しかし、体中の光を使い果たした星くずの子は、一夜限りの幻のように冷たい潮風の中へ消えていってしまいました。
次の朝、窓の外にはすっきりと晴れ渡った川崎の青空が広がっていました。そして女の子のベランダには、ほんのり温かい銀色のちいさなボルトがひとつだけ残されていました。
今でも浮島の煙突からきらりと火の粉が上がるたび、街の子どもたちは思い出すのです。だれかの願いを叶えるために、海の端っこで出番を待っているちいさな星くずの子の存在を。