あらすじ
十二の月に守られた世界で、人々は平穏な暮らしを送っていた。しかしある夜、伝説の「十三番目の月」が現れ、空の星々を飲み込み始める。星が消えるたび、人々は大切な記憶や世界の歴史を失っていった。
辺境の村で羊飼いとして暮らす少女イリアは、母の形見である銀の鍵に導かれ、世界の北にある禁断の地「星喰らいの谷」を目指す旅に出る。道中で歴史学者レオンと出会い、忘却に侵されつつある王国や森、神々の遺跡を巡りながら、世界を蝕む災厄の真相を追う。
やがて二人は、黒い月の正体が世界から忘れ去られた神ルシェルの悲しみそのものであることを知る。人間を愛したために神々から追放され、長い年月の中で誰からも記憶されなくなった神の孤独が、世界を滅ぼそうとしていたのだ。
旅の果て、星喰らいの谷でイリアは自身がルシェルの血を引く最後の継承者であることを知る。世界を救うために必要なのは戦いではなく、忘れられた存在を受け入れ、その悲しみを覚え続けることだった。
記憶と存在の意味を問いかける壮大な旅の中で、イリアは自らの名と引き換えに世界を救う決断を下す。すべての記憶が戻った後も、誰一人として彼女を覚えてはいない。しかし夜空には新たな銀の月が輝き続け、人々の心に名もなき英雄の残した温もりだけが静かに生き続ける――。
忘れることと覚えていることの意味を描く、神話的ハイファンタジー。