あらすじ
子爵家の長女エルネ、二十六歳。社交は苦手、夜会では壁の花、縁談は三つ下の妹に先を越された。
そんなわたしの唯一の習慣は、領地の果樹園の開花を記録すること。杏が咲いた日、霜が降りた朝、実が落ちた数。誰に頼まれたわけでもない記録帳は、今年で二十冊になった。
ある春、王都から無愛想な農務官がやってくる。領地の不作の原因調査に行き詰まった彼は、ふとした偶然から、わたしの記録帳を目にして――
「……二十年分の、開花日と霜の記録? 子爵領に、こんなものが現存するのか」
誰にも読まれなかった二十冊が、初めて読まれる。
ざまぁも断罪もありません。コツコツ続けてきた人の歳月が、静かに報われるだけの話です。