あらすじ
四年前、千春は迷い込んだ異界の山で送り犬に出会った。
転んではいけない、
立ち止まってはいけない、
振り返ってはいけない──
決まり事を守り、正しく歩けば、送り犬は人里まで送ってくれるという。
祖母から送り犬の話を聞いていた千春は、人の言葉を話す送り犬に助けられ、無事に送ってもらうことができた。
「千はたくさん、春は春」
別れ際にそう名前の意味教え、送り犬がそれを低い声で繰り返したことを、千春はその日から忘れたことがない。
そのまま、二度と会えないと思っていたのに。
祖母の七回忌の帰り、千春は再び異界の山へと迷い込む。
「かわいい」「お手」「いい子」「待て」「よし」
千春が何気なく教えた言葉を、送り犬はひとつずつ真面目に覚えていく。
やがて送り犬は、夜になると人の姿をとるようになり──教えたはずの言葉が、いつしか千春自身へ返ってくる。
山と人の世を行き来できるのは七度まで。
その終わりに、千春は山の神から異類婚姻の選択を迫られる。
帰すべきだと知っているのに、帰したくない。
帰らなければならないのに、離れたくない。
これは、名を覚えた怪異と、忘れられなかった娘の恋の話。
※この物語は、読み切り「送り犬」のその後を描いた恋愛 ifストーリーです。読み切り版を未読でもお楽しみいただけます。