あらすじ
月白記念病院には、満月の夜だけ囁かれる噂がある。長く眠り続ける少女の病室に、黒猫の影が現れる。そして少女は、目覚めないまま涙を流すという。
少女の名は、月代ひかり。事故のあと、身体は回復しているにもかかわらず、彼女は目を覚まさない。六道学園の生徒・鳴海マナは、その眠りがただの昏睡ではなく、強い喪失によって閉ざされた個人世界だと察する。
一方、蒼白い花が咲く月夜の森で、ひとりの少年が目を覚ます。少年は自分の名前も、来た場所も思い出せない。ただ、誰かに呼ばれていた感覚だけが胸に残っていた。
黒い湖。喪服の姫。赤頭巾の少女ベレッタ。白い仮面の悪夢ナイト・メア。そして境界の番人ファントム・ローズ。
少年は月光世界を歩きながら、眠り続ける少女の悲しみと、自分自身の正体へ近づいていく。
失ったものは戻らない。けれど、名前は消えずに残ることがある。
これは、朝を拒む眠り姫へ「目覚め」を届ける、切なく優しい現代幻想譚。