あらすじ
六月の終わり、妹の澪が原因不明の高熱で倒れ、三週間が過ぎても回復しない。医師にも異常は見つからず、祖母としは認知症で家族すら判別できない状態にあった。村では、としの記憶障害はかつて訪れた「沼」のせいだと語られている。沼に最も大切なものを沈めれば願いが叶うが、その代わりに対象との繋がりが消えるという。
介護と看病に追われる日々の中、澪を失う恐怖に耐えられなくなった主人公・奏は、迷信を否定しきれないまま沼へ向かう。古老の話や祖母の警告に葛藤しつつも、澪を救うために願いを捧げる決意を固める。沼の前で奏は、自分にとって最も大切なものが「澪との繋がり」であると悟る。それを差し出せば澪は助かるが、自分の中から妹への愛情や実感が消えてしまう。
葛藤の末、奏は繋がりを沼に沈める。すると澪は回復するが、奏の中から妹への感情は消え、記憶はあっても他人のようにしか感じられなくなる。家に戻った奏は、澪の回復を認識しながらも喜びを抱けず、笑い方さえわからなくなっていた。祖母と同じ「空白」を抱えたまま日常に戻る奏は、自らの選択の意味を理解しつつも、その喪失を実感できない状態で、新たな日々を生きていく。