あらすじ
雨の夜、塾帰りの高校生・悠真は、存在しないはずの「ぬかるみ駅」に迷い込む。そこは改札を越えようとすると足元が泥に沈み、外へ出られない奇妙な場所だった。電車に乗ると同じホームへ戻されるだけの循環の中で、悠真は六年前に川で亡くした親友・航と再会する。十一歳のままの姿で現れた航は、当時と変わらぬ口調で語りかけるが、その内には長い孤独の時間が滲んでいた。
悠真は、航が流されるのを見ながら何もできなかった自責を初めて口にする。だが航は「お前のせいじゃない」と静かに受け止め、自らの意思で動いた結果だと告げる。その言葉に救われながらも、悠真は航と再び離れることへの恐れから、この場所に留まりたいと願い始める。しかし航は、それは「生きることを手放す選択」だと強く否定し、自分のためではなく前へ進んでほしいと願う。
葛藤の末、悠真は航の手を取らず、一人で電車に乗ることを選ぶ。やがて目を覚ますと、現実の病室にいた。雨の日に転倒し、五日間意識を失っていたのだという。退院後、同じ道を歩いても駅は現れない。それでも悠真の中には、航の言葉が確かに残っていた。過去を忘れず抱えたまま、それでも前に進むこと。誰かに思いを手渡すこと。その決意を胸に、悠真は現実の地面を確かめるように歩き出す。