あらすじ
東京で映像作家として暮らす井村律のもとに、山あいの集落・藻引から一本の電話が入る。
十年前に亡くなったはずの祖母の、二度目の葬儀の知らせだった。
村人は祖母の死を「うつし身が戻った」と呼んだ。
差出人欄に祖母の名が書かれた手紙。
コップの水面に浮かぶ覚えのない黒子。
葬儀映像の中で、すべての鏡が白布で覆われた家。
何かを「映す」ことで、何かが「戻ってくる」。
藻引の山と、銅鏡の池と、白布をかけられた井戸。
封じられたものを辿るうち、律は自分が見ているのが「こちら側」なのか「あちら側」なのか、分からなくなっていく。
登場人物
井村 律(いむら りつ)/二十七歳/映像作家
古い民俗映像の記録撮影を生業とする。理屈で物を見る癖がある。十年前、藻引の祖母の葬儀を最後に村との縁は切れていた。
佐瀬 惣助(させ そうすけ)/六十代/藻引の世話人
村の冠婚葬祭と祭祀を取り仕切る家筋の人間。事務的な口調で異常な内容を告げる男。
井村 ちか/故人/律の祖母
十年前に他界。生前、孫の手のひらに「うつし身」と書いた。撮ったことのないはずの映像を残している。
菅生(すごう)家の老女/藻引在住
祖母の家の隣に住む。白布を縫う家系の最後の一人。律に「家の鏡」のことで何かを伝えようとする。
律の母/祖母の長女
藻引の出身だが村との縁を断っている。鏡を覆え、井戸を開けるな、と娘の家に厳命する。