あらすじ
昼下がり、とある一軒家の一室。
穏やかな日差しは厚手のレースカーテンに遮られ、室内には薄く濁った光が静かに広がっていた。外界を拒むかのように窓はぴたりと閉じられ、空気は重く沈んでいる。
カーペット敷きの床に広げられた布団の上には、この家の夫の遺体が横たえられていた。顔には白い布がかけられ、その下にかすかに鼻や顎の輪郭が浮かび上がっている。かつてこの家に音を刻み、熱を巡らせていたその身体は、今はもう微動だにしない。
布団の手前に置かれた小さな机には花や蝋燭、線香立てが整然と並べられている。たった今火を点けた一本の線香が、細く白い煙をゆらゆらと立ち上らせ、湿った香りを部屋に溶かしていた。
机の前で正座をしていた男は、ゆっくりと身体を横に向け、深く頭を下げた。
隣に座る女――故人の妻も小さく会釈を返した。
男は亡くなった夫の上司。連絡を受け、この日線香を上げに訪れていたのだ。