あらすじ
公爵令嬢イレーネ・ヴァイスは、六年間「理想の婚約者」を演じ続けた。笑顔を絶やさず、王太子の隣で頷き、宮廷の誰からも好かれる猫被りの令嬢――それが彼女の仮面だった。
ある夜、王太子から一方的に婚約を破棄される。理由は「男爵令嬢への恋」。しかしイレーネは気づいていた。破棄の裏に、彼女の実家が持つ北方交易路の利権を狙う者たちの影があることに。
「もう猫を被るのは疲れました」
仮面を脱いだイレーネは、宮廷に蔓延する嘘を一つずつ暴いてゆく。味方は寡黙な辺境伯ノエル・アッシュフォードと、幼い頃から仕えてくれた侍女のみ。観察し、仮説を立て、証拠を積み上げる。派手な魔法も剣技もない。あるのは頭脳と、六年間の宮廷生活で蓄えた「人を見る目」だけ。
信じていた人の裏切り、敵だと思っていた人の真意、そして避けられない喪失を越えて、イレーネは自分の名誉と居場所を取り戻せるのか。
――猫被りをやめた令嬢の、静かで鮮やかな逆襲が始まる。