あらすじ
高校二年・氷見野澪(ひみの・みお) は、クラスで一番嫌われている。
誰とも目を合わせず、笑わず、雑談に加わらず、放課後の鐘が鳴ると同時に消える。だから付いた渾名は「氷の女王」「冷血」「人間の皮を被った何か」。
――けれど。
彼女のスマートフォンには、クラス全員の人間関係マップと、進行中の 「四十二件のトラブルの芽」 が、几帳面にメモされている。
中学二年のあの日、たった一度、親友の小さなSOSを見落とした澪は、二度と同じ過ちを犯さないと決めた。だから観察する。記録する。介入する。誰にも気づかれないように、誰も傷つかないように。
落としたシャープペン一本、グループラインの既読の遅れ一秒、貸し借りのノートに挟まれた折り目――その全部から、起きうる悲劇を読み取って、先回りで摘み取る。それが、嫌われ者にしかできない、彼女のたった一つの償いだった。
そんな彼女の前に、ある春の月曜日、転校生が現れる。
新堂奏(しんどう・かなで)。爽やかで、優しくて、クラスの中心に三日で収まってしまうような、絵に描いたような男の子。彼は、放課後、誰もいない教室で澪の机に手をついて、にこりと笑った。
「――氷見野さん。君がこの教室で何をしているか、僕は全部、気づいてるよ」
ばれた。
四年間、誰にも気づかれなかった秘密が、たった一人にだけ、見つかってしまった。
これは、自分を罰し続けてきた少女が、たった一人に「見つけてもらった」ことで、ようやく自分のために息をすることを覚えていく――そんな、小さくて優しい、教室の中の物語。