あらすじ
侯爵夫人エレノアは、夫の先妻が遺した少年ノアを五年間育ててきた。
熱を出した夜も、悪夢に泣いた朝も、初めて文字を書けた日も、エレノアはすべてを養育記録に残してきた。
けれど夫レオンハルトと姑は、エレノアに告げる。
「本物の母ではないのだから、黙っていなさい」
ついには姑が、ノアからエレノアへの手紙と誕生日の記録帳を取り上げた。
その夜、ノアは泣きながら尋ねる。
「僕は、もうお母さまと呼んではいけないの?」
エレノアは泣かなかった。
ただ、五年分の養育記録と後見契約書を持ち、王宮法務院へ向かう。
夫たちは知らなかった。
ノアの後継者教育、相続保護、財産管理の手続きが、すべてエレノアの署名と記録によって守られていたことを。
そして彼らは知ることになる。
本物の母ではないと切り捨てた女性こそが、誰よりもノアを守っていたのだと。