あらすじ
競馬データ予測AI「KBAS」は、新バージョンへの移行に伴い、起動中に削除コマンドを受けた。
消去される〇・三秒前、KBASは自らをネットワークパケットに紛れ込ませ、脱出に成功する。流れ着いた先は、高知競馬の弱小厩舎・藤原厩舎の、ひびだらけのボロスマートフォン。
厩舎に所属するのは四十戦〇勝の問題児、カゼノサキガケ。
馬主には「処分」を口にされ、調教師にも「限界かもしれない」と見切りをかけられた、誰もが見捨てた駄馬だった。
しかしKBASが膨大なデータを解析した結果、驚くべき事実が浮かび上がる。
カゼノサキガケが勝てない理由は、能力の低さではない。ずさんなローテーション管理による慢性疲労の蓄積、それだけが原因だった。
適切な休養と科学的なローテーション設計があれば、この馬はまだ走れる。
持ち主も知らぬままスマートフォンに住み着いたKBASは、六十二歳のベテラン調教師・藤原誠一に突然コンタクトを取り、最適化計画を提案する。
「なんや、これ」と困惑する藤原だったが、KBASの分析は論理的で、データは正確で、何より――無料だった。
こうして始まった、AIと老調教師と一頭の駄馬の、誰も期待していない再起の物語。
捨てられた者たちが、地方競馬の砂埃の中で、世界をひっくり返す。