あらすじ
路地裏に駆け込み、吐いた。
まただ。
男に告白されるたび、リディアは決まって吐く。
革鎧の匂い。汗。鉄の臭気。
男が“そういう目”で近づいてくると、身体が勝手に拒絶した。
周囲には気味悪がられ、縁談も長続きしない。
けれど彼女は、それで困ってはいなかった。
――あの男が現れるまでは。
失踪した商人の息子を追っているという監察官フロス・ディンバーク。
彼はリディアを見るなり、静かに言った。
「貴女、人が消えた話に慣れていますね」
その日を境に、フロスは毎日のように酒場へ現れるようになる。
何も注文せず、ただ彼女を見つめ続ける男。
少しずつ暴かれていく、失踪者たちの奇妙な共通点。
そして――
半年ほど前から家へ帰らなくなった父の名前も、その中にあった。