あらすじ
温室の硝子に
夜露が落ちるたび、
植物たちは静かに息をする。
人は嘘を隠す。
言葉で、涙で、沈黙で。
けれど葉脈は覚えている。
踏まれた土を。
毒を混ぜた指先を。
夜更けに震えた足音を。
黒薔薇は死を吸い上げ、
ラフレシアは腐臭の奥に罪を隠し、
朝顔は咲かぬ朝によって秘密を守る。
根は知っているのだ。
地中に埋められたものを。
消された名前を。
帰れなかった人間を。
ヴィラ・ボタニカ。
そこは花園ではない。
美しさと毒が、
同じ色で咲く場所。
若き研究員は、
人より植物を信じていた。
植物は裏切らない。
光へ伸び、
水を求め、
ただ生きる。
だからこそ、
その静かな葉陰に潜む悪意は、
いつも人間のものだった。
夜明け前の温室で、
風に揺れるウツボカズラが嗤う。
「真実は、
もう根を張っている」と。