あらすじ
西暦二六七年
慢性的な睡眠不足が人々の心を蝕み、眠れぬ者たちが虚ろな目で日々を送る時代。白水里では、その症状を「眠り欠け」と呼んでいた。
白水里の若き技師・真守は、発案者の佐久、姪の文とともに、人を深い眠りへ沈め、心を休ませる装置「寝台」の開発を続けている。
だが、寝台はまだ未完成だった。
救えるのは、たった一人。
里全体を支えるには、あまりにも力が足りない。
そんな中、隣郷・黒継郷から使者が訪れる。
資源豊富な赤磐邑に襲われ、郷の存続が危ういという黒継郷。攻めを好まない白水里の村長・白波は、「防衛ならば」と手を貸す決断をする。
真守は、守るために黒継郷へ向かう。
しかし、そこで目にしたのは、焼けた郷、眠りを失った人々、作られたように整いすぎた傷跡だった。
黒継郷の村長・黒乃は、何かを隠している。
森には不自然な気配が残り、夜ごと「赤い鬼」の噂が囁かれる。さらに、白水里の罠を抜いた者の影が、真守たちの周囲に近づいていた。
眠り欠けを止めるには、寝台を完成させるしかない。
だが真守は、やがて気づいていく。
人を救うために作った寝台は、本当に人だけを救うのか。
眠りの中に沈めた者は、同じ名のまま戻ってこられるのか。
これは、眠れぬ時代に、救いの装置を作ろうとした技師の物語。
真守が作る寝台は、里を救う希望となるのか。
それとも、人の名と関係を揺らす、もう一つの災いとなるのか。
登場人物紹介
真守
白水里の若き技師。寝台装置の開発を担う中心人物。仕掛けや構造に強く、現実的な判断をする一方で、文や家族への情も深い。眠り欠けを抑えるため、未完成の寝台に可能性を託している。
文
白水里の少女。真守や佐久とともに寝台装置の記録を手伝っている。勘が鋭く、場の空気や人の違和感にいち早く気づく。明るさと率直さを持ちながら、里を襲う異変の中心へ踏み込んでいく。
佐久
寝台装置の発案者。真守の師匠であり、白波とは昔からの深い付き合いがある。穏やかに見えるが、物事の奥を見ている人物。装置の可能性と危うさを誰よりも理解している。
白波
白水里の村長。争いを好まず、里を守ることを第一に考える。攻めるのではなく、守るために動く人物。過去に何かを背負っており、その判断が物語の根に関わっていく。
黒乃
黒継郷の村長。艶やかで掴みどころのない言葉を使い、人の心を揺らすことに長けている。赤磐邑に襲われたとして白水里へ同盟を求めるが、その胸中には別の思惑が見え隠れする。
磐斗
白水里の防衛長。罠や見回り、里の守りを担う実務者。冷静で寡黙だが、危険の気配には敏い。白波の方針を支えながら、現場の判断を引き受ける。
小夜
白水里の見回り役。霧や森の変化、足跡や気配を読むことに優れている。静かに状況を観察し、里に迫る異変を察知する。
灯里
白水里で火を守る女性。炉の火を絶やさず、人々の落ち着きを支える。場の温度や人の疲れをよく見ており、眠り欠けが里を蝕む危うさを肌で感じている。
迅
白水里の若者。足が速く、門や連絡役として動く。焦りやすいところもあるが、里を守りたい気持ちは強い。若さゆえの勢いが、物語の緊張にもつながっていく。
白音
真守の母で、白波の娘。穏やかで柔らかな物腰を持つが、その言葉や沈黙にはどこか読めないものがある。黒乃との間に、ただならぬ気配を漂わせる。
文真
文の父で、真守の兄。明るく人当たりがよく、場を和ませる役目を自然に引き受けている。軽口の裏で周囲をよく見ており、家族と里を大切にしている。
弥勒
黒継郷から来た使者。丁寧で感情を表に出さない話し方をする。黒乃の意を受けて白水里を案内するが、その振る舞いには計算された静けさがある。
柊馬
黒継郷の守りを預かる男。口数は少なく、黒乃のそばに控える。人の動きや武器、弱点を見抜くような目を持つ。忠実な護衛でありながら、黒継郷の闇にも近い場所にいる。