あらすじ
「帰る場所」
冷たい廊下に
小さな足音だけが響いていた夜
「おやすみ」と言ってくれる人の声を
何度も胸の中で探していた
窓の外の灯りを見ながら
いつか自分にも
帰れる場所ができるのだろうかと
幼いふたりは空を見上げていた
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大人になっても
傷は消えなかった
夜勤明けの眠気
足りないお金
泣き止まない赤ん坊
積み重なる洗濯物
それでも
六畳一間の小さな部屋には
確かに“ぬくもり”が増えていった
「おかえり」
たったその一言が
こんなにも心を救うと
ふたりは初めて知った
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介護の仕事は
誰かの人生に触れる仕事だった
弱さに寄り添い
痛みに耳を澄まし
寂しさを見逃さない仕事だった
だからふたりは知っていた
人は
立派な家ではなく
「大丈夫だよ」
と言ってくれる誰かによって
生きていけるのだと
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子どもたちの笑い声が
狭い家いっぱいに広がる
散らかった玄関
名前の書かれたコップ
眠る前の「ぎゅっ」とする時間
そのひとつひとつが
かつて欲しかった宝物だった
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血のつながりだけが
家族じゃない
涙を拭ってくれた人
信じてくれた人
待っていてくれた人
その全部が
“ふるさと”になる
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季節は巡り
紫陽花の咲く庭で
ふたりは並んで空を見上げる
泣いていた子どもたちは
いつの間にか大きくなり
「ただいま!」
という声が
今日も家中に響いている
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帰る場所がなかったふたりは
長い長い階段をのぼって
ようやく見つけたのだ
誰かの心をあたためる
小さな灯りを
そして今日もまた
その灯りの下で
四つ葉のクローバーが
静かに揺れている