あらすじ
秋澪町は、年中雨に濡れる山間の町。
霧雨蓮見は雨が嫌いだった。
九歳の夏、自分のわがままが原因で両親は濁流に呑まれた。それ以来、蓮見は誰とも口をきかなくなり、体はその記憶に呪われたかのように、指先はいつも冷えきっていた。町はずれの古びたアパートで一人暮らし。頭の中にあるのはただ一つ——大学に受かったら、ここを出ていく。それだけ。
高校二年の春、東京からの転校生が、彼女の灰色の世界に飛び込んできた。
小春日和。
名前の通り、晴天のように明るい少女だった。運動神経抜群、笑顔が絶えず、あっという間にクラスの中心になった。彼女は妙にこの雨ばかりの町に興味を持ち、そして——クラスでただ一人、決して口をきかない女生徒に、説明のつかない関心を寄せた。
「……冷たい。あなたの手」
小春に指先を包まれた瞬間、蓮見は生まれて初めて知った——誰かに触れられても、怖くないと思えることがあるのだと。
けれど、小春にも秘密があった。いつも上がっている口元は、弟のぶんまで生きようとする、精一杯の強がりだった。
通憶山の夏祭りには、死者の魂が還ってくるという。
二人の少女は、それぞれ抱えきれない傷を胸に、その山を目指す。
——雨のあと、空は本当に晴れるのだろうか。
これは、雨と晴れ、喪失と出会いの物語。