あらすじ
昼の世界で、片桐律はいつも少し遅れてしまう。
生まれつき右足に麻痺があり、発達特性によって事務仕事にもつまずきやすい。
真面目に働いている。努力もしている。それでも、昼の職場では「能力がないわけではない」「ただ、業務との相性が」と言われ、少しずつ居場所を失っていく。
夜、律はすすきののソープランド〈灯〉で「リラ」という名前になる。
そこには、妻に言えない寂しさを抱えた男が来る。
初めての性に怯える若者が来る。
亡き妻の背中を、もう洗えない男が来る。
自分の身体を否定されずに見てほしい人が来る。
障害のある娘の未来を、律に重ねてしまう父親が来る。
律は彼らの話を聞く。
浴室で背中を洗い、隣に座り、沈黙を急かさず、声にならないものを受け取っていく。
けれど、聞くことは人を救うのか。
料金の発生する優しさは、嘘なのか。
商品として差し出された時間の中に、本物はあるのか。
昼でも夜でもうまく生きられない律は、客たちの孤独を抱えながら、自分自身の身体と生活にも向き合っていく。
救えなかった夜がある。
傷つけてしまった言葉がある。
それでも、確かに聞いた声がある。
すすきのの雪の夜を歩く、孤独と身体と「聞くこと」の物語。