あらすじ
鼻の穴に小豆が何個入るか。
その検証をしていた記憶を最後に、私は三歳ほどの幼児の身体で目を覚ました。
場所は崖下。頭から血を流している。状況から見て、どうやら落ちたらしい。
この身体は何者なのか。
なぜ老婆と老爺は、私を以前から知っているのか。
この身体の鼻には小豆が何個入るのか。
老夫婦が暮らすのは、人里から遠く離れた高マナの谷。
家の周囲には結界の石杭が並び、沢の向こうには普通の人間が近づけない森がある。
粗い木造家屋の中には、妙に質の高い紙束、薬草、工具、用途不明の道具が揃っている。
老婆は伝説的な薬師であり、魔法使い。
老爺は伝説的な魔道具職人。
二人は国家や教会の管理を嫌い、その外側で生きている。
私はただの幼児ではなかった。
辺境の小領主の次男、ナラム・オ・アルドヴェイン。
人間が通常持たない小さな魔石と、生得的な固定マナ回路を持つ、管理されるべき子供。
これは、深刻な世界で、深刻な出自を持った幼児が、深刻でないまま生き延びる話。
魔法を教わる前に、まず鼻に豆を入れないことを叩き込まれるお話。