あらすじ


こんなはずじゃなかった。

「では聖女、暴れず頭を垂れなさい。貴女も辛いのは嫌でしょう」

こんなはずじゃなかった…。

「貴女が悪いのです。上手に使ってあげようと思っていたのに…」

こんなはずじゃ、なかった…!

「知らずとも良いことを知ってしまった、視てしまった。貴女がね」


じめじめした薄暗い地下牢の生臭い温度とは対照的に、ひんやりと冷たい刃が嘲笑うように首に触れる。
心臓が痛いほど波打ち、同じリズムで喘ぐような呼吸が漏れる。まるでここに空気など無いかのように、まるで首でも絞められているかのように。あまりの緊張で上手く息が出来ない。
許しを乞う罪人のように頭を床に押し付けられる。きっとその勢いで頬も切れているが、もうどこが痛いのかさえ分からない。
腕は血が止まるほどきつく縄で結ばれ、濡れるほど汗ばんでなおろくに動きもしない。
見えるのはこの世界で最も慕った女性の靴の爪先と、私を抑え込む男の太い腕だけ。

「やりなさい」

何の情も、躊躇いも一切無い声。今までだって、幾度もこうしてきたのだろう。私が知らなかっただけで。
鈴のように静かに凛と響く声の主が踵を返す。
それを合図に、風を裂くような音を纏った重い刃が振り上げられ、その先端が硬い床にすら反射して煌めいたような気がした。


(助けて、お父さん)

眩しい。

(…私の、可愛い…かわいい弟)

その煌めきは一瞬で視界を塗り潰し。

(……会いたい)

(…お母さん………)

後は音も無く。

私は愛しい家族の顔も見えない遠い世界の果てで、一人尽きた。

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アルファポリス
アルファポリス2026/05/26
  • 現在の作品死に戻り異世界聖女の御伽噺