あらすじ
「明日の夜明けの鐘を、一刻早めてほしい」
婚約者のギルベルトは、まるで花瓶の位置を変えるような気軽さでそう言った。
理由は、妹ミリアの叙爵披露。朝日が差し込む演出に合わせるため、王都中央塔の大時計を動かせという。
けれど王都の時計は、ただ時を告げる飾りではない。
東門の開門、港の水門、市場の競り、薬師院の火入れ、王宮結界の循環。
そのすべてが、時計守エルナの針に支えられていた。
「針を少し進めるだけだろう」
そう笑った婚約者に、エルナは静かに告げる。
「承知いたしました。では、私の針を外してまいります」