あらすじ
月浦透(つきうら・とおる)は、親友の中野春(なかの・はる)に密かな恋心を抱いていた。
ある日月浦の経営する古書店に訪れた春に、月浦は一瞬で目を奪われる。最初は「なんとなく気になる」程度であった月浦だが、以来何度も足繁く店に通う春に興味を持ち、遂に勇気を出して話しかける。会話を重ねる内に春の魅力を知り、もっと仲良くなりたい、とそう強く願うようになる月浦。春もまた、月浦に好意を抱いているようであった。
次第に興味は友情、そしてやがて恋心へと変化していく。
ある日喫茶店を訪れた二人。共通の趣味である読書の話をしながら、月浦はずっと気になっていたある質問を、意を決して春に行う。それは「好きな人がいたんじゃないのか」、そして「彼女がほしいと思わないのか」というものであった。玉砕を覚悟していた月浦だが、春は思いの外あっさりと「諦めたよ」「仕事(本業)と執筆活動が忙しくてそれどころではない」と答える。
安堵する月浦だったが、親友の恋路が上手くいかなかったことを一瞬でも喜んでしまった自分に対し、強い自己嫌悪に陥る。
そんな月浦に対し、春は「そっちはどうなんだ。いい人はいないのか」と逆に問いかける。月浦が春と同じ考えであることを伝えると、月浦の気持ちを知ってか知らずか春は「老後は2人でのんびり田舎暮らしでもするか」と言い、月浦は頭では冗談だと思っていても淡い期待を抱いてしまうのであった。
余計な考えと激しく脈打つ心臓を落ち着けるため、読書に集中しようと必死になる月浦。ふと春の方を見ると、春は物憂げな表情で雨が降りしきる窓の外を眺めていた。
その美しい横顔に思わず見惚れる月浦に、春はこちらを見ずに問いかける。「どうした、またじっと俺のことなんか見て」と。
焦る月浦に春はからかうように「さては見惚れてたな」と言う。月浦は図星をさされあせるあまり「男になんて見惚れてどうする」と言ってしまうが、春は何かを知っている様子で「素直じゃない」、「誰かを好きになるのに、男も女も関係ない」と言う。
月浦はまた、春のその思わせぶりとも言える言動に翻弄されるのであった。
喫茶店を出た二人はいつものように月浦の家へと向かう。そこで、月浦は春から執筆活動があまり芳しくないということを聞く。月浦は現実的な発言を行いながらも、春の作品を美しいと評し、春を勇気づける。夕食の後、強い眠気に襲われた春を寝室に運んだ月浦は、無防備な寝顔を見せる春に対し抱いてしまった「キスしたい」、「触れたい」といった邪な感情から必死に目を逸らし、春を襲わないように努めながらも、「自分の恋はきっと報われない、辛い」と嗚咽を洩らす。
そうする内にやがて疲れ果てて意識を手放す月浦。翌朝、起き上がって隣を見ると、傍で眠っていたはずの春の姿がなかった。
春はキッチンで昨夜泊めてもらったお礼に、と朝食を作っていた。食事の後、月浦は春を誘いある場所へと向かうが……。