あらすじ
手首の100円の時計が、チクタクと安っぽい音を立てて現在を刻んでいる。
2026年の秋葉原は、目も眩むような5Gの電波と最新のガジェット、そして無数の観光客の喧騒に埋め尽くされている。かつてこの街が「オタクの聖地」や「混沌としたジャンクの街」と呼ばれていたことなど、誰もが忘れてしまったかのように。
大学生活に馴染めず、自分の居場所を見つけられない青年・キシは、その日も路地裏のジャンク屋『サトウ電器』の薄暗い店内にいた。埃をかぶったブラウン管、剥き出しの基盤、色褪せた同人誌。そこは、急速に変わりゆく未来の街に置いていかれた、過去の砦のような場所だった。
けれど、僕は知らなかったのだ。
誰も見向きもしなくなったジャンクの底、1990年代のノイズの向こう側に、ずっと閉じ込められたまま、誰かを待ち続けていた「迷子」がいたことを。
これは、VHSとブラウン管の画面を通じて始まった、1995年の迷子と、2026年の孤独な僕たちの物語。