あらすじ
海外赴任が決まった幼馴染・如月千歳(きさらぎ ちとせ)の海外生活をサポートするため、主人公・相馬蓮(そうま れん)の部屋で毎晩のように行われていた不器用な「自炊訓練」。それは、淡いピンク色のエプロンを纏った千歳と、料理を教える蓮が、お互いの距離を縮めるための甘く不器用な「大義名分」だった。
しかし、千歳のロンドン赴任が突然白紙になったことで、二人が毎晩部屋に集まるための免罪符は完全に消え去ってしまう。さらに二人は同じ会社に勤める同僚。終わりの決まった砂時計が砕け散った日常の中で、二人は周囲の目を欺くため、オフィスで完璧な「他人のフリ」を演じることを余儀なくされる。
「広報部のエース・如月さん」と「人事部の相馬さん」として、冷たいビジネス敬語を交わし合う衆人環視の日常。だが、大義名分を失って本当の気持ちに気づいてしまった二人の渇望は、オフィスの裏側で限界を迎えていく。夕暮れの非常階段、雨のエントランス、緊迫した給湯室――一瞬の視線の交錯や、触れそうで触れない数センチの焦燥に、二人の心臓はフロア中に響くほどに高鳴り、千歳の耳たぶは隠しきれない桜色に染まっていく。
料理もエプロンもない、からっぽになった1Kの部屋。逃げ道を失った袋小路の中で、ついに他人のフリの限界を迎えた二人は、夜の静寂のなかで激しく抱き合い、お互いの体温を強く求め合う。
幼馴染という安全な殻を破り、ただの同僚という「最高の他人のフリ」を逆手に取った二人は、誰にも見えない秘密の糸で繋がりながら、生涯解けることのない新しい関係の未来へと歩み出す。