あらすじ
死んだ人間の部屋には、嘘が少ない。
特殊清掃員・瀬名透は、事故物件や孤独死の部屋を片づける男だった。
人間の感情には鈍い。
だが、部屋に残された違和感だけは見逃せない。
一本だけ違う歯ブラシ。
動かされた椅子。
埃の上に残った不自然な空白。
瀬名はそうした痕跡から、そこにいた人間の輪郭を読む。
ある日、瀬名は解体予定の旧研修施設を訪れる。
本来は一階から四階までの確認だけだった。
だが当日の朝、なぜか「五階も確認せよ」という指示が追加されていた。
五階にあったのは、誰も住んでいないのに生活だけが整えられた部屋。
机の引き出しには、小さな鍵とラベルのないカセットテープ。
鍵が開いた先には、図面に存在しない地下があった。
地下で瀬名を待っていたのは、久遠ミカと名乗る少女。
「開けない方がいいですよ」
彼女は怯えていなかった。
助けを求めてもいなかった。
ただ、瀬名を観察していた。
彼女を追う白鷺会。
彼女を利用しようとするネスト。
そして、すべての対立を観測するアーキヴ。
空っぽだった清掃員は、少女を拾った日から、世界の裏側に残されたものまで片づけることになる。
これは、何も持たない男が、初めて「手放したくないもの」を見つける物語。