あらすじ
祖父が亡くなった春、大学三年の悠人は京都の路地裏に遺された喫茶店「サンルーム」を夏休みの一ヶ月だけ受け継ぐことになる。寡黙だった祖父の手書きのレシピノート、止まった柱時計、二階の小さなガラス張りの部屋。何者でもない自分に焦りながら、悠人は慣れない手つきでコーヒーを淹れる日々を始める。
開店から数日、ふらりと店を訪れたのは白いワンピースに麦わら帽子の少女・千夏。彼女は祖父の若い頃を見てきたかのように語った——祖父の叶わなかった初恋の人「ちなつ」と、同じ名前を持って。雨の日には来ない。連絡先を教えてくれない。写真はなぜか撮れない。
夏が深まるにつれ、千夏の語る祖父の影と、悠人自身の夏が静かに重なっていく。届かなかった一杯のクリームソーダ。書かれなかった手紙。
京都の夏が連れてきたひと夏限りの不思議な物語。