あらすじ
桐原真琴、32歳。
弁当工場をクビ、元夫は借金だけ残して失踪、
小学3年の娘と二人暮らし。
彼女の唯一の武器は、記憶力だった。
誰が何を嫌うか。誰が最近元気ないか。誰が体に気をつかっているか。
ただ見ていただけなのに、全部覚えている。
帰宅途中に出会った潰れかけの老舗弁当屋。
倒れた老人の代わりに厨房へ入った真琴は、
「その人専用の弁当」を作り始める。
◆夜勤明けの看護師には「匂いの残らない弁当」
◆高血圧の老人には「減塩なのに味が濃い弁当」
◆冬の現場仕事には「冷めても旨い弁当」
◆スナックのママには「夜遅くでも胃に優しい一皿」
300円チェーンの価格破壊。
元夫の突然の帰還と親権要求。
「どうせ無理」と諦めた商店街の大人たち。
それでも真琴は、朝4時にシャッターを上げる。
泣かない。弱音を吐かない。
ただ、明日来る人の顔を思いながら、弁当を作る。
豪雨災害が街を襲ったとき、
真琴の弁当が、商店街を動かした。
大団円じゃない。大成功でもない。
でも朝になると、行列ができる。
「ここ、街の保健室みたいな店だな」
静かな逆転