あらすじ
化学と生物が好きな女子高生・高科理沙(たかしな りさ)、十七歳。
理科研究部の部長。成績はほぼ満点。でも友達はほぼいない。口を開けば元素記号が出てくる。
「感情より化学式のほうが信用できる」が口癖の、ちょっとだけ面倒な女の子。
そんな彼女が、化学準備室での爆発事故をきっかけに、目を覚ましたら古代中国風の後宮に召喚されていた。
言葉は通じる。体は元のまま。制服は相変わらず紺色のまま。
帰り方はわからない。手がかりもない。あるのは理科研究部のバッグと、全科目のノートだけ。
「まあ、情報収集から始めよう」と理沙はノートを取り出した。
後宮では三日前、皇帝の寵妃・環玉妃が謎の死を遂げていた。
宮廷中が「呪い」とざわめく中、理沙は医局の老医師から症状の話を聞いた瞬間、答えを出していた。
「呪いじゃないです。ヒ素の慢性中毒ですよ」
口は災いの元、と誰かが言った。
でも理沙には黙ることができない。正しいことが目の前にあるのに見逃すことが、生まれつき、できないのだ。
その一言が、宮廷随一の切れ者と恐れられる青年官吏・楼景清(ろう けいせい)の耳に届いた。
謎解きをするつもりはなかった。
恋をするつもりは、もっとなかった。
でも化学式は嘘をつかないし、どうやら理沙の心臓も、ある日から正直になりすぎてしまったらしい。