あらすじ
深夜二時。私はまた、古いスマートフォンの電源を入れる。
三年前、何も言わずに消えた幼馴染で恋人の蒼真。残されたのは、ノイズだらけで聞き取れない一件の留守電だけ。『……莉子、俺は――』その先の言葉は、何百回再生しても、もう届かない。
忘れようとした。優しい婚約者もできた。左手には百万円の指輪が光っている。人生は「前」に進んでいるはずなのに――深夜になると、消えかけの音声に耳を傾けてしまう。もう聞き取れもしない「好きだよ」を探して。
五歳で出会い、ずっと一緒だった。無口で不器用な彼が、花火大会の夜に「似合ってる」と言ってくれた瞬間、世界の色が変わった。大学で両想いになって、やっと手に入れた幸せだったのに。
なぜ、あなたは私を置いていったの?
なぜ、最後に「忘れて」なんて言ったの?
婚約者の隣で眠れない夜を過ごす私は、きっと最低な女だ。それでも消せない、あの声。あの温もり。あの——名前を呼ぶ、優しい声。
止まった時間は、もう動き出さないのだろうか。
幼馴染との十五年の想いと、消えかけの留守電が紡ぐ、切なくも温かい再生の物語。