あらすじ
ボストンの十二月、幸福で満ちたレストランのテーブルの下で、ひとつの小さな箱が出番を待っている。
「もう戻りません」――
日本で壊れ、アメリカに残ることを選んだ青年リュウジは、ボストン郊外の田舎町スペンサーで、仕事、住居、言葉、そして恋をひとつずつ手に入れていく。
生活は少しずつ形になっていった。皿を洗い、車を走らせ、言葉を覚え、誰かと同じ部屋で眠る。
それでも、口にした約束は、同じ形のまま残ってはくれなかった。
破られた約束は戻らず、彼の中には埋まらない空白だけが残る。
アメリカという場所で、彼は少しずつ、自分で選ぶことを覚えていく。
やがてその生活に、過去の代わりではなく、理由を求めず隣に立つ誰かが入り込んでくる。
これは、失った過去を消す物語ではない。
四インチの隙間を残したまま、「ありがとう」の意味が変わっていく、静かな恋と生活の物語。