あらすじ
二十二の誕生祝いの夜、殿下の席はまた空いていた。
私は公爵令嬢セレスティア。
婚約から七年、殿下の隣はいつも乳姉妹のもの。
「君なら分かってくれる」その一言で、私は譲り続けてきた。
譲ってきたものは席だけではない。
慈善行事の差配。孤児院の運営。貧者への施し。
殿下の名で記録されてきた七年の働きは、ぜんぶ私の手の中にあった。
そんな七年目の朝、教会から銀の封蝋の書状が届く。
「次代の聖女として、お迎えに上がります」
私の名前で呼ばれたのは、いったいいつ以来だろう。
教会本部で私を待っていたのは、若き枢機卿アロイス。
彼は静かに言った。
「あなたの祈りを、私はずっと数えておりました」
数えていた、と彼は言う。
誰にも気づかれなかったはずの七年を。
私が譲ってきた席の意味を、知っていた人がいた。
私が独りで歩いてきた道に、見ていた人がいた。
殿下は今ごろ、私の不在に気づいているだろうか。
それとも、まだ気づいていないだろうか。
私の二十二の春は、ここで終わるのですね。
鏡の前でそう呟いた夜から、私の七年は静かに動き始めた。
あなたなら、何を譲り、何を譲らずに生きてきましたか。