あらすじ
一九五一年、春。大浪(大阪)・法蘭寺横丁。時空跳躍の激戦を終え、お嬢様(リンゼイ)が体調を崩して寝込んでいる探偵事務所。助手のアトラは、街に張り巡らせた不可視の『蜘蛛の網(知覚ネットワーク)』の端が、北摂山系の境界で謎の「腐食するエーテル」によってドロドロに溶かされていることに気づく。「お嬢様の巣(日常)を脅かす害虫は、私がバラバラに解体します」アトラは一人、不穏なエーテルの源泉である山奥の集落へと単独調査に向かう。だが、辿り着いたその隠れ里でアトラが出会ったのは、新緑の木々がすべて不気味な「死の灰色」に変色し、崩れ落ちていく絶望の光景だった。そこに隠れ住んでいたのは、日本陸軍航空部隊に所属していた元・飛行兵――宮本漣(みやもと れん)。大戦の心の傷を負って軍を脱走した彼は、山中に住む心優しい老婆とその孫娘の元で、身を隠しながら穏やかな日常を過ごしていた。しかし、外宇宙から飛来した得体の知れないモノ――すべてを吸い尽くす【宇宙からの色(カラー)】によって、漣は一度は取り戻したはずの人間性のすべてを、目の前で、冷酷に奪い去られてしまう。アトラは高位の蜘蛛型モンスターとしての本能を完全解放し、何万もの糸で空間ごと色彩を縛り上げようとする。――しかし、宇宙の深淵の前には、彼女の絶対の網すら音もなくドロドロに溶かされ、すり抜けてしまう。自分の力への驕り、怪異としての限界。アトラは自らの『愚かさ』を突きつけられ、絶望する。最愛の家族を灰の塵に変えられ、狂気と正気の狭間に叩き落とされた漣の瞳に、ひとすじの『希望に似せた絶望』が宿る。「置いていくなよ……俺は、お前を追いかけるぞ……!」漣は、大浪陸軍飛行場の地下に隠されていた、エリア51経由のロズウェル超科学を積んだ宇宙用ラムジェットエンジン搭載の極秘迎撃兵器――『試作ロケット機・カツヲドリ』に乗り込む。天才になれなかった凡人が、その愚直さだけを武器に異常なチェックリストを完璧に跳ね上げ、宇宙へと逃亡する外宇宙生命体を追うために、大気圏外へと飛び出していく!高度一万、二万、そして成層圏を越えて、音のない本物の宇宙の深淵へ。ロケットの残光が星海の彼方へ消えゆく中、地上に取り残されたアトラは、人間としての本物の心(人間性)に目覚めてゆく。人間にとって、希望は絶望であり、絶望は希望なのだ――。アトラ単独主役編『カツヲドリ、星海の深淵へ征く』、ここに開幕。