あらすじ
春先の風はまだ少し冷たくて、それが逆に気持ちよかった。
王都から北へ三日。街道を外れて森に入り、さらに半日ほど歩いたところで、少年はようやく立ち止まった。
「……うん。この辺だな」
腰までしかない背丈に不釣り合いな大きな荷袋を背負った少年――千歳樹一郎は、木々の隙間から差し込む光を見上げて満足そうにうなずいた。
年の頃は十二歳。
くせのある黒髪はあちこち跳ねていて、着ている外套は枝に引っかけたのか裾が少し破れている。見た目だけなら、森で迷った町の子供にしか見えない。
だが彼は、この国に正式に任命された調査官だった。
アルヴェンス王国東方辺境調査局所属調査官。
もっとも、その肩書きを知っている本人ですら、いまはどうでもよさそうだった。―――――――――――