あらすじ
私は確かに、母でした。
けれどこの世界には、その証拠が何ひとつ残っていない。
栞が残した一通の手紙。
そこに書かれていたのは、存在しないはずの子供の名前だった。
雨の夢を見る風香。
白い廊下、掴まれた手首、そして知らない声。
「こちらへ来られますか」
初めて会ったはずの蒼介を、なぜか胸だけが覚えている。
優しくて、不器用で、誰かの居場所を作ろうとする人。
惹かれてはいけない気がした。
それでも、そばにいたいと思ってしまった。
けれどその想いの先には、
誰にも覚えられていない喪失が待っていた。
いないことと、いなかったことは違う。
これは、愛しているからこそ選べなくなる物語。