あらすじ
【筍】
雨を吸った山の匂いがする
指を土へ差し込むと
冷たさの奥で
春が眠っていた
「ここだよ」
祖母の声は細いのに
竹林では不思議とよく響く
湿った落葉をどけるたび
茶色い頭が少しずつ現れる
筍はいつも
秘密みたいに生えている
鍬を入れる音
竹のきしむ音
遠くの鶯
耳の奥まで春になる
「折るなよ、惜しいから」
笑った顔の皺に
長い季節がたまっている
掘り上げた筍は
赤ん坊みたいに重く
土のぬくもりを抱えていた
家へ帰れば
湯気の向こうで米が炊ける
醤油の匂いに混じって
さっきまで山だったものが
食卓に座っている
「ほら、熱いうち」
口に入れると
やわらかな苦みが広がる
春は甘いだけじゃないと
筍が教える
外では竹が鳴っている
風に揺れながら
カラカラ
カラカラ
まるで山が
静かに笑っているみたいに