あらすじ
工藤智哉、二十八歳。物理化学の博士課程五年目。
最後の実験に挑んだ深夜、理論計算では起きるはずのない反応が起き、彼は爆発に巻き込まれて死んだ。
「もっと、家族と話せばよかった」――それが、彼の最後の願いだった。
気がつけば、彼は別の身体で産声を上げていた。
神々と魔法のある世界、アルテリア大陸。学術都市アルセリアに居を構えるヴァルメール家の、新しい次男。
新しい名前は、テオドール。
額には「知の御印」と呼ばれる神紋が、消える直前まで確かに刻まれていた。誕生の夜空には、千年に一度の紅月が懸かっていた。
十歳の神月十五日、テオは神託の儀で「賢者」のクラスを授かる。
初級全属性魔法と、魔法の構造を読み取る《魔法解析》。素質スキルの《真理の眼》《完全記憶》。
前世の物理化学の知識と、賢者の力。組み合わせれば、何だってできる気がした。
――だが、現実は甘くなかった。
学院で初めて試した「酸素濃縮による火炎増幅」は制御不能になり、実験室は半壊。
教師は静かに言った。「お前は魔法を、『お前の世界の理屈』で見ている」。
古文書に残された一文「六なる者の手によりて、再び封ぜよ」。
地脈の乱れ、千年眠っていた古代魔導具、神々の声に時折混じる疲労の色。
世界には、自分ひとりでは絶対に解けない謎がある――テオはそれを、初めて知る。
これは、二十八歳で死んだ研究者が、異世界でもう一度、実験ノートを開く物語。
無双はしない。
チートには必ず代償がある。
失敗は、隠さず記録する。
そして、今度こそ家族と――やがて出会う五人の仲間と――この世界と、ちゃんと話そう。
第一部・賢者テオ編、開幕。
神々の機能不全、前文明の遺産、六なる魂の意味。
すべては、ひとりの少年が「最初の魂」と呼ばれる日から始まる。