あらすじ
柊真白、28歳。会社では理不尽に責められ、家族からは必要とされない——どこにいても透明な存在。そんな私の唯一の光は、毎朝同じ電車で見かける「彼」だった。名前も知らない。声も聞いたことがない。ただ窓際の席で本を読む横顔を、一年間そっと見つめ続けていた。彼もきっと孤独なのだと、勝手にそう信じて。けれどある日、彼が乗ってこなくなった。三日、四日、五日——空席だけが残される朝が続く。「明日は会える」という希望だけで生きてきた私の世界から、色が消えた。会ったこともない人を、探しに行く。それがどれほど無謀で、どれほど滑稽なことか、わかっている。でも、このまま何もしなければ、私は本当に壊れてしまう。偶然出会った青年・小鳥遊の助けを借りて、私は「彼」を探す旅を始める。名前も、職業も、何も知らない。手がかりは、七時四十二分の電車と、黒縁眼鏡と、あの寂しそうな瞳だけ——。一度も交わらなかった視線の先に、私たちの物語は待っているのだろうか。