あらすじ

雨の音が、古いアパートの窓を叩いていた。 六畳一間。 古いエアコンは、時々ガタガタと変な音を鳴らす。 壁紙も少し剥がれていた。 でも。 部屋の中には、シチューの匂いが広がっていた。 「……よし」 月城修は、小さく息を吐く。 鍋の中では、安売りの野菜が煮えている。 見切り品の肉。 少し形の悪いにんじん。 それでも、丁寧に作った。 修は料理が好きだった。 誰かに怒られないから。 ちゃんと“できる”と思えるから。 四十歳。 無職。 収入は障害年金。 少し発達障害もある。 うまく働けなかった。 人付き合いも苦手だった。 でも。 掃除して。 洗濯して。 静かに暮らしていた。 部屋の隅には、一本のほうき。 そして、ちりとり。 修は、それを手に取る。 「……来るなら来い」 ぶんっ。 「魔王軍め。この“聖なるほうき剣”が――」 ピシャアアアアアッ!! 突然。 窓の外が、昼みたいに白く光った。 「っ!?」 雷じゃない。 光が。 空から落ちてきた。 修は思わずベランダを見る。 雨の中。 そこに、“穴”が開いていた。 青白い光が渦を巻いている。 「……は?」 心臓が嫌な音を立てる。 夢かと思った。 でも。 次の瞬間。 その光の中から、人が落ちてきた。 「きゃあああっ!?」 「うわあああっ!?」 ドサッ!! ベランダに、少女が倒れ込む。 銀色の長い髪。 びしょ濡れのドレス。 透き通る青い瞳。 まるで物語から飛び出してきたみたいだった。 でも。 「いたたた……」 普通に痛がっていた。 修は呆然とする。 少女も、呆然としていた。 雨の音だけが響く。 数秒後。 少女が、おそるおそる口を開いた。 「……ここは」 きょろきょろと辺りを見る。 古いアパート。 洗濯物。 室外機。 安っぽいサンダル。 少女は、真剣な顔で言った。 「……地下牢、ですか?」 「違う」 反射で答えていた。 少女は、ほっとした顔になる。 「よかった……」 「いや、よくないよ!?」 修は慌てる。 「え、なに!?誰!?警察!?いや違うな!?え!?」 少女は、びくっと肩を震わせた。 「あっ……す、すみません……」

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/05/21
  • 現在の作品城を捨てた姫と、無職の俺