あらすじ
### 五億円とつゆだく特盛
ポケットに眠る一枚の紙切れが
世界をにわかに黄金色へ染め上げる
五億という数字の重みに
昨日の服はあまりに軽く
いつもの部屋はあまりに狭い
仕事を辞める空想の刃(やいば)
タワマンの窓から見下ろす街並み
膨らみすぎた風船は
やがて、小さな寝息さえ脅かす
「奪われるのではないか」という怪物の影
誰も信じられなくなる前に
重い扉を押し開け
数字を口座に閉じ込めた
初夏の青空は眩しく
私はようやく、ただの私に戻る
お腹が空いた
券売機の前に立ち
いつもの指を少しだけ横へ滑らせる
並盛りを特盛に変える
つゆだくの汁が、ご飯に深く染みていくように
私の自由も、ここから染まっていくのだろう
どれほど桁が増えようとも
私の胃袋は、私のサイズを越えはしない
一杯の牛丼を「美味い」と笑える
この平熱の幸福こそが
五億円(きん)の鎖を、ただの翼に変えてゆく