あらすじ
公園に響く伴奏のなか
七十二年分の記憶が
ラジオ体操の動きに合わせて
骨の髄まで、かすかに軋む
タケルの背中は
いつも通りの猫背で
けれど、その声は凍りついていた
「幸せにできそうにない」
その言葉が
朝露に濡れた銀杏の葉のように
ひらりと地面に落ちた
七十二年、待っていたのに
七十二年、隣にいたのに
指のあいだをすり抜ける
約束という名の砂時計
識字障害の私には
彼の心に書かれた「別れ」の文字は
最後まで、読むことができなかった
ただ、ただ
終わりの深呼吸が
肺いっぱいに溜まって消えていく
朝日が残酷に降り注ぐ広場で
私だけが、昨日という時間に
取り残されていく