あらすじ

北方辺境を救った英雄ジークヴァルト・グライフは、人々から「灰狼」と呼ばれ、兵にも民にも崇められていた。 だが今、彼は辺境伯家の北塔に置かれている。 牢ではない。食事も、本も、暖炉もある。 けれど扉には鍵がかかり、彼は自由に外へ出ることができない。 彼を閉じ込めたのは、彼を憎む者ではなかった。 かつてジークを騎士に取り立て、戦場へ送り、英雄にした老辺境伯オットーである。 ジークの名は、もはや一人の男の名ではなかった。 民は彼を救世主として求め、若い騎士たちは彼を旗印にしようとし、王都はその人気を反乱の火種として警戒する。 辺境伯の娘ローゼフェリアだけが、彼を「灰狼」ではなく、ただのジークとして愛していた。 彼女は願う。 彼を婿に迎えればいい。 そうすれば、彼は北塔から出られるのではないか、と。 しかし父は告げる。 ジークを婿に取ることは、彼を救うことではない。 英雄を家に迎えるのではなく、辺境伯家そのものが英雄譚に呑み込まれることなのだ、と。 それでもローゼフェリアは、彼を一人の男として愛することを諦められない。 北塔で交わされる、誰にも認められない小さな婚礼。 胸に挿された白い花。 そして、民衆の前でジークが最後に選ぶのは、灰狼として讃えられることではなく、自ら英雄譚を壊すことだった。 これは、英雄として愛された男を、一人の男として愛した令嬢の短い悲恋。 そして、誰かを伝説にして奪おうとする人々への、最後の拒絶の物語である。

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小説を読もう2026/05/20
  • 現在の作品灰狼と薔薇