あらすじ
婚約者に捨てられて三年。私は『Loss』——喪失という名のカフェを営みながら、あの日置いていかれた片方だけのマグカップを、棚の奥でずっと抱えていた。
捨てればいい。そんなことは分かってる。でも、これを手放したら本当に終わってしまう気がして——。
そんなある雨の夜、閉店後の店に変な男が現れた。
「それ、譲ってもらえませんか」
真壁蒼一。全国の喫茶店を巡り『対になるものを失った食器』を集めているという、傘も持たない不思議な蒐集家。
「片方だけになったものには、物語がある。だから価値があるんです」
売り物じゃないと断っても、彼は毎週通い詰めてきた。コーヒー一杯だけ頼んで、閉店後の店で静かに待っている。マグカップの『物語』を聞かせてほしいと——。
誰にも話せなかった三年分の想い。少しずつ語るうちに、私は気づいていく。傷ついた心を抱えているのは、私だけじゃないということに。
これは、欠けた二人が出会い、新しいペアのマグカップを買いに行くまでの物語。