あらすじ
よく晴れた断罪の大広間。悪役貴族クロードの罪状が読み上げられる。「聖女を虐げ、常軌を逸した修練を課し、戦場へ送った」——全て事実だ。だが進み出た最強の聖女フィーナは、青ざめた顔で微笑み、彼を庇う。「あれは全部、私のためでした。だから——次の課題をください、先生」。その一言で、クロードだけが気づく。自分は彼女を、救ったのではない。
努力の達成快感に依存する男だった。課題を立て、超え、脳が焼ける——その一瞬のためだけに生きてきた。転生先は鬱ゲーの世界。彼は原作で断罪される悪役貴族で、ヒロイン・フィーナは何度も心を折られ、最後は破滅事件で誰にも救われず死ぬ少女だった。彼は最大の課題を見つける。「原作で折れるこの子を、誰にも依存しない最強の聖女に育てる」。
優しい言葉ではなく、課題を。守るのではなく、守らなくても生き残れるように。原作知識で破滅の筋書きを先回りし、悪役を演じて他者への依存を断ち、苛烈な修練で鍛え上げる。フィーナは史上最年少で快挙を重ね、王都を救う聖女へと完成していく。育成は、完璧に成功した。
だが彼の善意の課題は、彼女に努力中毒を感染させていた。「褒められるため」が「努力しない自分は無価値」に変わり、“完成”は彼女にとって、先生に捨てられる合図になる。誰も彼を止められない。救えば救うほど、彼女は壊れていく。
そして冒頭の大広間。完成した聖女は、断罪の場でなお課題を乞う。クロードはついに、自分が彼女を“同じ中毒者”に造り替えたと悟る。生まれて初めて、努力では解けない課題が彼の前に立つ——「彼女を、努力しなくても笑える人間に戻す」。彼は初めて課題を出さず、フィーナは三年ぶりに涙を流した。
——誰よりも正しく救って、誰よりも深く壊した。努力中毒の悪役貴族による、育成=加害の曇らせ譚。